最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)740号 判決 1958年10月24日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人米村正一の上告趣意一について。
所論は原判決の判例違反を主張する。しかし、原判決の認定によれば、被告人は昭和二五年二月八日早朝金三俊ほか一名に頼まれ同人らがその頃他から窃取して来た衣類等在中の風呂敷包二個をその賍物であることの情を知りながら鎌倉市長谷一六番地金容方附近から同人宅四畳半の押入までの間運んでやったというのであるから、賍品の場所的移転はあるのであり、たとえその運んだ距離にさほど遠くないものがあるといえ、被告人は本件賍品の隠匿に加功し、被害者の該賍品に対する権利の実行を困難ならしめたものということができる。従って、原判決が本件につき賍物運搬罪の成立を肯定したのは相当であり、何ら論旨引用の判例と相反する判断をしたことにはならない。所論は採用できない。
同二について。
原判決が判示賍物運搬の事実認定の証拠として挙示している被告人の司法警察員に対する第一、二回供述調書が被告人の自白調書であり、その有力な補強証拠となっている第一審第七回公判における証人金容の証言中に松本二郎の供述を内容とするいわゆる伝聞部分のあることは所論のとおりである。しかし、右証言に際し被告人側から異議の申立のあった形跡はない。のみならず、同証言と被告人の司法警察員に対する第一回供述調書とを総合すれば右松本二郎と曹決守とは同一人であることが窺われ、第一審第五回および同第一一回各公判における証人曹決守の証言によれば、同人は既に本件犯行当時の記憶は全くこれを喪失していると認められること原判示のとおりであり、しかも原審公判当時同人が既に所在不明となっていたことは本件記録に徴し明らかである。しからば、原判決が刑訴三二四条二項、三二一条一項三号の趣旨に則り、右証人金容の供述に証拠能力を認めたのは相当であって、原判決には何ら所論の如き判例違反はない。また、論旨中違憲をいう点は、その実質は、原判決が右金容の証言に証拠能力を認めたことを非難する訴訟法違反の主張に帰し、上告適法の理由とならないばかりでなく、同判決に所論のような違法のないことは右に述べたとおりである。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)